子供の頃は、よく有刺鉄線を目にしていた気がする。
子供は、たとえフェンスや塀があっても、「向こう側」に行きたいと思えばよじ登って乗り越える。そこで有刺鉄線が問題になってくる。有刺鉄線があれば、さすがに諦める。彼らとしても、血だらけになってまで雑木林の秘密基地にアクセスしたいわけではない。子供には子供の価値基準がある。
大人は、ちょっと事情がちがう。フェンスや塀がある時点で、「向こう側」に行ってはいけないと推測できる。有刺鉄線の有無は、大した問題にはならない。ただ、豪邸に侵入して金品を奪うのに、血だらけなるくらい平気な人もいるかもしれない。それが大人というものだ。そしてぼくはそんなことしないので、有刺鉄線を目にすることもないのである。