十月八日(月)

スパイラル式の耳かき引き出しの奥に隠して彼女が来る日

耳かきにこだわる男、というレッテルがある。あるだろう。あるとしてください。貼られたいか、貼られたくないか。ぼくは貼られたくない。耳かきなんて、耳がかければそれでいいんだと、ふんぞり返って、どっしりと構えていたい。「スプーンの部分が小さすぎる。これじゃあかけないよ」とか「これ竹? 参ったなあ、俺、竹のしなりがないと無理なんだよね」とか、言いたくない。何につけても、こだわりがあると思われるのが、なんだか怖い。モテなさそうだ、というのもある。

これはぼくの意見というだけで、世の中には、妙なレッテルを自ら貼り付けて、幸せそうな人もいる。プリンにこだわる男がいたとして、たぶん彼は「プリンは表面に焦げ目がないと本当はプリンとは呼べない」とか、「プリンといえばホイップクリームとさくらんぼが乗っているイメージがあるだろ? あれはJAの陰謀なんだよ。俺は認めないね」とか、そういうことを言うのだ。そして、周りの人たちから「たかがプリンなのだから、そんなに目くじらを立てないであげて」と思われつつ、本人は「プリンにこだわってこそ俺」という自負があって、プリンのこだわりを話すことで幸せを感じ、「プリンにこだわる男」という評判こそが、褒め言葉なのです。

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